ユートピア
ボリビアのサンタクルスにある孤児院を訪れた体験をもとに描いた、この絵の裏側にあるエピソードを紹介していきます。
目次
ボリビアのサンタクルスにある孤児院を訪問
私がボリビアに住んでいた2001年に、サンタクルスの町にある孤児院を訪ねました。
ここには乳児から6歳ぐらいまでの孤児たち80人ほどが、シスターたちとともに暮らしていました。
シスターに院内を案内してもらいました。
給食室に入ると子どもたちは10人掛けぐらいの丸いテーブルを囲んで食事をしていました。
なんともかわいい風景でしたが、1日3食の給食で母親と一緒に食べることはありません。
親がいないのですから。
小さなぬいぐるみたち
つづいてベッドルームに行きました。
大きな部屋の中にはいくつもの小さなベッドが、間隔を空けて横に並んでいました。
それぞれの小さなベッドの上には、古ぼけた小さなぬいぐるみが置いてありました。
私はシスターに聞きました。
「このぬいぐるみは、子どもたちが遊ぶために置いてあるのですか」
シスターは言いました。
「これは子どもたちが、夜に抱いて寝るためにあるのです。寝ているときに寂しくなっても子どもたちには抱いてくれるお母さんがいませんから、そのかわりに日本からの援助で送ってもらったこの小さなぬいぐるみをお母さんにして抱いて眠るんですよ」
これを聞いて私は胸が締め付けられるような感じがして、夜中に子どもたちがぬいぐるみを抱いて眠る様子を想像すると涙が止まらなくなりました。
お父さんもいて欲しい
帰りに中庭で子どもたちと遊ぶ時間をいただきました。
8人ぐらいの子どもたちが駆け寄り私に抱き着いてきて、頬にキスをしてきたり次々と上に乗ってきたりでもみくちゃにされました。
シスターが近づいてきて言いました。
「この子たちにはお父さんもいませんから、こうしてたまに男性が訪ねてくるといつもこうなるんですよ。母性愛だけじゃなくて、父性愛にも飢えているんですね」
しばらく子どもたちと遊んでから別れるとき、子どもたちは声をそろえて
「Mi papa!! Mi papa!! Mi papa!! …(お父さーん!お父さーん!お父さーん!・・)」
と大合唱していました。
嬉しいのと悲しいのと複雑な感情が入り乱れるなか、孤児院をあとにしました。
悲しみのない世界を描きたい
帰国して孤児院の子どもたちのことがずっと頭にありました。
途上国に限らず世界では幼くして亡くなってしまう子もいるし、寂しさを募らせている子もたくさんいます。
そんな子どもたちが楽しく過ごせる理想の世界を描きたいと思いました。
ユートピアです。
ここでの子どもたちは、いつもぬいぐるみのような動物たちと一緒にいてお母さんが迎えに来るまで幸せに暮らしています。
お母さんをずっと待っています。
死産や流産で生まれてこれなかった子どもたちも、ここでは動物たちに抱かれて大切にされています。
悲しみのない世界にしたいという強い思いが、この絵を描く切っ掛けになりました。
現在、私は二人の子どもの親となりました。
いつも子どもを抱いて寝ています。
いまでもふと、あの子たちはどんな思いで毎晩一人で眠っていたのかなと思うときがあります。